新世界の夢など見ない
断続的に紡がれる弱々しい水音が神経を逆撫でる。
(チッ、男がめそめそとだらしねぇ)
『おい、宿主、』
「…、ない」
『あ?』
「誰も、守ってくれなんて言ってない!遊戯君たちに聞いた!大体いつもお前は勝手に出てきて勝手にボクの身体を操ってみんなに迷惑かけて!そんなに楽しい?ボクをめちゃくちゃにするのがそんなに楽しい!?」
先程の女々しい泣き声から一変、長髪を振り乱しながら怒鳴り散らす程の爆音も出せるらしい。
だがやはり気に入らない。
(守っただと?)
「…気まぐれなんだろ?」
(オレ様がこいつを?)
「どうせいつものように、勝手な行動なんだろ?」
YESかNOか答えたところでオレ様はどうなる?
震えながら睨み付けてくるこいつは、どうなる?
(まったく見当もつかねぇ)

錆びた扉の第8天国
『目でも悪くなったか?』
「違うよ」
『じゃあ、頭がイカれた』
「まさか」
横断歩道の先にそびえる信号機の色はまぎれもなく赤だった。
それでもアスファルトを滑る大量発生した四輪に溶け込もうとする宿主は言う。
「これは一つの実験」
まるで餓鬼みたいな無邪気な笑顔がオレ様の血液を刺激した。
『馬鹿じゃねぇの』
「お前ほどじゃないよ」
そんな下らない実験結果なんて、お前もオレ様もとうに目に見えてる癖に。

パステルキャンディーは悪魔の囁き
「所詮お前はボクの憑き物でしかないんだよ」
「例えばさぁ、お前がもし何かを食べたり飲んだりしたとしても結果それはボクの骨や血肉となる訳で、」
「つまりお前はボクがいないと何かを食べる事も出来ないし誰かと話す事も出来ないし剰え泣く事も出来ないんだよ」
「泣く事さえも出来ないなんておかしいね、笑っちゃう」
「お前は赤子以下って事さ」
「だからボクはお前なんか全然恐くなんかないし、お前なんか突然いなくなったって、」
息継ぎの暇さえ見当らなかった宿主の言葉はそこでまるで嘘の様に止まる。
甘い悪魔の囁きは次の言葉を見つける旅に出たらしい。

遠い音楽
深夜の公園で十から始まる滑稽な遊びにボクはうつつを抜かす。
…三、二、一、大きく息を飲み込んで、
「もういいかい?」
振り向いた先にはあの聞き慣れてしまった自分に良く似た声すらも、もう、聞こえる筈も無く。
上に羽織ったサイズの少し合わない漆黒のコートだけは、ゆらゆらとボクを嘲笑うかの様に踊っていた。

未だ朽ち惜しい身を告げる貴方のその笑顔
手先が器用だからなんてボクから言わせてみれば言い訳みたいなものだった。
お前が必要とするならこの体ごと全てくれてやる。
「…ねぇ、このフィールドの中にお前の帰る場所はあるの?」
また殴られたって蹴られたって構わない。
ただボクはどうしても知りたかった。
千年アイテムのこと、古代エジプトのこと、そして…、
「宿主さんよォ、無駄口を叩く暇があったら手を動かしなって言っただろ?」
麻痺した身体は脳に鋭い痛みを与えない。
しかし新しい痣はまた一つこの体に刻み込まれた。

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