嘘はほんのり赤い
メロンパン、サンドイッチ、クリームパン、アンパン、菓子パン、もう一つクリームパン、それから…
「半兵衛、お前そんなに食うの?」
「違うよ、これとこれは幸村君と分けて食べるんだ」
どれとどれだよ。
慶次が心の中でツッコミを入れたその瞬間、半兵衛はまた菓子パンを手にするものだから堪らない。
「なぁ、俺弁当忘れちゃってさ、俺にもなんか分けてよ」
「そんなの知らないよ、弁当忘れた慶次君が悪い」
一通り買い物を済ませた半兵衛はもう教室に戻ると言い出した。
慶次は知らない、半兵衛の買い物の中に慶次の好物の焼きそばパンが入っていることを。

この関係に名前を付けるとしたら
昼休み、二人で席を並べて甘味を食べる。
いつの頃からか始まって、日常になったその行為が今ではとても大切な時間だった。
今の今までは。
「甘味同盟は解散でござるか…?」
カカオ80%のチョコをかじる半兵衛を見て、幸村は消えてしまいそうな声でそう呟いた。
沈んだ表情でそれでも好物の三色団子を口いっぱい頬張る幸村に、半兵衛はかける言葉が見つからなかった。

乙女よ大志を抱け
スカートが似合わないから、と俯いた君には確かに代打の黒が似合っているけれど。
「だからって学ランを着るのはどうなのかな」
「これは、幼馴染みがくれたお古で、」
「佐助君?」
「ち、違う!あんな奴ただの腐れ縁だ!」
「…見たいな、セーラー姿」
興奮を静める為の僕の囁きは意外な効果を発揮してくれたらしく、思わず笑みが零れる。
色素の薄い肌を見る間に朱色に染めた彼女はやはり一人の可愛い女の子そのものでしかなかった。

もう一度やり直せるなら、もっと上手に生きられますように
「ごめんなさい」
胸に染み込んだ暖かい光の匂いを身体から追い出せずに、
私は一人上手な生き方を選んだ。
今も尚心に巣くう哀しい悪夢から逃れる為に。
「…ごめんなさい」
もう一度息を大きく吸い込み、歪んだ笑顔と共に謝罪の言葉を吐き出した。

図書室ではお静かに
古インクの香りが染み付く四隅に貼られた文章は自らの役目を努める事に専念出来ないらしく、それにいささか僕は同情を覚えてしまった。
「それがなんと!薩摩芋を使った実に美味なパフェだったでござるよ!!」
小一時間前まで手の中の文字の羅列に夢中だった生徒たちから伝わる痛々しい視線や囁き声など気にしないふり。
結局のところ僕も甘いのだ、昨日食べたばかりの甘味について未だ目を輝かせながら語っている隣の彼に。
「それで、その、竹中殿、」
「行こうか」
「え?」
「補習お疲れ様、道案内は任せたよ」
真っ赤なタルトを食べて死んだ女の子に栞を挟み、僕らは古インクの香りに別れを告げる。

高気圧なあの娘は約束を守りに行く
「青春って素晴らしいですね」
色素の薄い長髪をだらりと垂らした保険医の片目が、妖しく微笑む。
恐らく体調を崩した自分を心配して、保健室まで付き添ってくれた彼女を思い出しているのだろう。
「馬鹿な事を…、大体彼女は、」
慣れた手つきで薬を言葉ごと飲み込んでやった。

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